CHEF’S Sensitivity

成田 一世 NARITA KAZUTOSHI

イタリアやニューヨークなどの名店で腕を振るい、海外でも実績を重ねてきた成田シェフ。海外で活動し、海外から見た日本を知る成田シェフの視点で、これからの地域食材のあり方や九州食材を発信するための心得を聞きました。

食材の潜在力を調理でどこまで引き出すことができるか。

パティシエも料理人も、調理する方はその食材の潜在力がどこにあるのかを考えます。その地域の気候、土壌や水の特性などで、食材が持つ質は変わります。土地にあった食材が生まれるということは、自然の原理として当然であり、大切なこと。
反対にそこに自生する食材からその土地の素晴らしさを気づかせてもらうこともあります。人の手を加えず、育っていく食材もあります。食材の根底にある魅力を知ることは、風土を知ることでもあると思っています。調理する側が食材の潜在力をどれだけ引き出すことができるか。そこに美味しさの先にある食としてのあり方を学ぶヒントがあるのだと思います。

「美味しい」に辿り着くまでのプロセスをきちんと知ること。

現在、様々な食材が生産者の努力によって進化しています。
糖度、塩分濃度など品質改良を重ね、食材そのものが美味しくなっています。そのまま食べても、甘く、みずみずしく、美味しい野菜や果物がたくさんあります。生産の進化によって、食材の魅力が伝わり、生産地の活性化に繋がり、第一次産業の発展に貢献するという流れは、いいことだと思っています。
ただ一方で、食の発展は、それだけでもいけないとも考えています。「食材の潜在力を引き出す。」ということも私たち調理する側の役目だと考えます。調理して美味しくなる食材を見極め、その食材が持っているナチュラルな力を調理によって高めること。調理する前に甘いのではなく、調理した結果、甘い。ということも大切なこと。食材がブランド化していく中で、美味しいに辿り着くまでのプロセスをきちんと伝えながら、まだ知らない食材の魅力を発信していくことも重要だと考えます。

九州の食材を世界に発信するためには、 食材の適性の見極めと知恵を大切にしたい。

食材の中には、昔ながらの方法で育てている方もいます。人手が少ない関係で、あまり生産されていないものもあります。流通コストや輸送時間によって、拡散できないものもあります。昔から食材は、『育てる人、運ぶ人、調理する人』の知恵によって、その土地での食べ方や保存するための方法、より美味しく食べるベストな調理方法など創意工夫してきました。フレッシュ(生もの)とドライ(乾きもの)の違いはそこにあります。例えば、大分の椎茸を生の状態から調理しようとした時、一番美味しい状態で食べることができる場所は、もちろん大分です。フランスでそれと同じ状態のものを食べようとすると、フランスで椎茸を育てなければいけません。しかし、そうなると土壌や気候が変わるため、大分で作る椎茸の味とは違うものになります。だから、フランスで大分の椎茸を美味しく食べるとすれば、やはり干し椎茸になります。干し椎茸は、旨味を凝縮させるだけはなく、保存がきくからです。私たち調理する側は、その食材が持つ潜在力や美味しくするためのプロセスをきちんと見つめることが大切です。ナチュラルに良い状態で食べてもらうにはどんな方法が良いかという知恵は、昔からあります。食の知恵と食材の適性を見極めながら、地域食材を発信していくことが大切だと思います。

食材の基本は、その地域に合ったものしかできない。 食材本来の味を記憶することは、豊かな食生活のきっかけになる。

私たちの味覚はどうしても、でき上がったものばかりが基準化されています。例えばチョコレート一つにとっても、スーパーなどの市場に並ぶもので、美味しさに量りをかけています。もちろん、それは生活の一番近くにある味覚なので当然のこと。
しかし、素材そのものに関してもっと知識だけでなく実感として知ることも大切なことだと思っています。調理した上での美味しいという基準は、育った環境や年代によって違います。食材そのものを味覚として記憶することで、美味しさのバリエーションも広がり、豊かな食生活を導くきっかけになるのかと思います。

成田氏の代表格とも言われている『シュークル』

金色の球体をスプーンで崩すと、トリュフが香るマスカルポーネが顔を覗かせます。ブラックベリーの酸味、フランボワーズの泡、コニャックのシャーベットが、絶妙なマリアージュを生み出します。

CHEF'S PROFILE

パティシエ 成田一世(ナリタ カズトシ)

1967年、青森県生まれ。イタリア・フィレンツェの三つ星レストラン「エノテカ・ピンキオーリ」、ニューヨークの「ラトリエ・ド・ジョエル・ロブション」など数々の名店でシェフ・パティシエを歴任。2012年、銀座 「エスキス」 シェフ・パティシエ。2016年、スイーツサロン「エスキス サンク」を開店。米ニューヨーク・タイムズ紙「Best of New York(パン・スイーツ部門)」、2017年度「アジアのベストレストラン50」で「アジアのベストパティシエ賞」を受賞するなど受賞歴多数。

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